人事の診断&強化
組織変化に伴う人材開発機能と人事機能の診断&再強化
ある企業の人事責任者の方が、「人事や人材開発に関する自社の現行制度が、きちんと機能していないため、現場からの不満も大きい。会社として新しい制度を作っていきたい」と相談に来られたのが、最初のきっかけでした。その人事責任者の方によると、人事制度は5年以上前に構築したもので、「様々な問題があることはわかっているものの、具体的にどのように変えたらいいのかがわからない」「専門家の力を借りながら、今の組織や環境に合った制度を構築したい」「人事や人材育成に関する方針や戦略も無いため、その部分から明確にしていきたい」ということでした。そこで、私たちはまず、人事に関する数値データの収集分析と、各職種各階層へのヒアリングから行うことにしました。いま現在の組織の人材構成の状態、それぞれの層が求められている役割や直面している課題、今後発生する可能性があるリスクなどを多面的に調査していく中で、下記のことが分かってきました。
ヒアリングを通して判明したこと
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50歳以上の社員は多いが、30〜40代の社員が少なく、中堅層の空洞化が起こっている
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若手から見て、年齢的にモデルになる人や、悩みを共有できる年齢の近い社員がいないため、若手は、問題やストレスを一人で抱え込みがちになっている
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中堅層がいないため、15年以上も歳の離れた中高年層が若手を指導しているが、世代ギャップもあり、若手から気軽に相談できる関係は作れていない
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若手や中堅層も、業務が忙しく目の前の業務をただこなすだけになっていて、長期視点での成長やキャリアの形成が考えられていない
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組織の成果に貢献している優秀な若手よりも、成果にあまり貢献していないベテランの方が年収が高く、若手や中途社員の不満や転職につながっている
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50歳以上の社員で管理職のポストが埋まっているため、優秀な30〜40代の社員がいても、空きがでなければ管理職に昇格させることが難しい
ヒアリング調査の結果、組織の中の人材供給の流れである「エンプロイー・パイプライン」に滞りがあり、複数のポイントで問題が起きていることが明らかになりました。私たちは、上記のヒアリング結果を踏まえて、下記の6つの方針施策を提案しました。
人材開発&人事の再強化のための6つの方針施策
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1.構成設計人材に関する様々な構成比や構成人数を確認し、目指す状態を設計する
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2.循環設計組織への流入人数&流出人数を確認し、目指す人材の入出数を設計する
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3.成長設計管理職や経営層や専門人材になるまでの成長ステップを具体化&設計する
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4.中堅形成社外からの中途採用と、社内の若手育成を強化し、短期間で中堅層を形成する
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5.継承施策高年齢層から継承する必要があるノウハウや人脈を具体的にし、対策をとる
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6.制度改善若手が他社に流出せず、この会社で働き続けたいと思える人事制度に再構築する
最も重要なことは、組織に入ってから出ていくまでの人材循環「エンプロイー・パイプライン」の目指す姿を具体化し、それを実現するための手を打っていくことです。また、このケースでは、高年齢層が退職することで、組織がこれまで保有していたノウハウや人脈を失うリスクがあり、そういったナレッジマネジメントの面でも対策を打つ必要がありました。こうした状況を踏まえ、私たちは、まず、現状の人材構成&人材循環と、今後に向けた組織全体の方針戦略をもとに、目指す人材構成&人材循環を設計していきました。そして、その設計図と比較して、うまく機能していないところに対して、対策を打っていくことにしました。具体的に言うと、中堅層の空洞化が起こっているため、社内外から、中堅層を補完していく必要がありました。
しかし、中堅層を外部から採用しても、採った分だけ辞めていくのであれば意味がありません。そこで、中途採用を強化するとともに、中堅や若手の退職理由になっている原因に対して、一つひとつ根本的な解決策を実施していきました。その範囲は、育成定着、風土変革、制度変更など、多岐にわたります。
育成定着に関しては、比較的着手しやすい分野ではありますが、このケースがそうだったように、現場の業務が忙しく、育成に手が回らない状況になっていることも少なくありません。そういった場合、一足飛びに、最終状態を実現しようとするのではなく、少ない労力で、育成や定着の効果性を高められる部分はどこなのかを検討し、対策を講じていくことが重要になります。今回のケースでは、まず職種ごとに入社後5年間の成長設計図を作成してもらい、それをもとに、現場と人材開発担当部署の双方で、育成施策を考えてもらうことにしました。制度変更に関しては、多くの場合、その実行は痛みを伴うものですが、それをやっていかなければ、組織の未来を創り出すことがさらに難しくなります。人が新たに入ってこなかったり、人が残っていかない組織は、最終的には廃れていく運命にあるからです。「この会社で働き続けたい」と思える組織や制度を作っていくしか道はありません。このケースでも、人事制度の大幅な見直しを行い、最終的には、新人事制度に移行することになりました。
こうした一連の取組みの中で、最初は、施策に対して疑問や反発の声もありましたが、取組みを進めていく中で効果を体感する人が増えていき、次第に、スムーズに進むようになりました。社員の人たちからも、それぞれの階層に求められていることが明確になり、自分自身の成長やキャリアプランを考えやすくなった、という声が聞かれるようになりました。これらの数年にわたる取組みによって、この企業では、人材の安定確保については目処がたち、次の段階としては、人材の質をどのように高めていくかという課題に取り組んでいくことになりました。
人材開発&人事の再強化を進める上でのポイント
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トップの意向だけでなく、人事に対する具体的な数字や事実をもとにして、人事の方針戦略を立てる
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採用や人材開発や人事制度を個別に考えるのではなく、最終的にどんな人材循環を組織の中に創り出したいかに紐付けて連動させる
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仕組制度の移行には痛みを伴うため、これまでの既得権益を失う層には、可能な限り移行措置で配慮する
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人事や人材開発の仕組制度の全体像に対して、少なくとも3年単位で見直し&改善していくプロセスや機会を設定しておく
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最終的には、その仕組制度を回しているだけで、組織が良い方向に変化していける仕組制度を構築する
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人材開発&人事の強化
組織が直面している課題や組織の方針戦略を踏まえて、担当部署や担当者と一緒に、人材開発&人事の戦略や施策を策定していきます。併せて、人材開発や人事の専門スキルを持ったエキスパートを、組織の中で育てる支援を行います。
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