実践スキルの錬成
継続実践によるパフォーマンス・スキルの強化
ある企業の人材開発担当者の方から、「様々な研修をやっているけど、どれも具体的な実践につながっておらず、全面的に研修を変えていきたいと考えている」という相談を受けたのが最初のきっかけでした。その企業では、階層別研修からスキル研修まで、一通り、研修体系として取り揃えてはいるけれど、具体的な効果が見えないため、このまま続けていて意味があるのか?と上からも指摘されている、とのことでした。そこで、私たちはまず、これまでどんな研修をやってきたのか、研修内容を確認させてもらうとともに、研修に参加した経験がある社員の人たちに対して、「これまでの研修の何が問題だったのか?」「現場ではどんな課題に直面しているのか?」などのヒアリングを行いました。その結果、下記のことが分かってきました。
ヒアリングを通して判明したこと
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その場では「なるほど」と思っても、普段の業務に当てはめて習慣化できるかというと、それまでやってきた経験や慣習に引っ張られて、なかなか変えることができない
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研修に対する意欲は高く、「変わっていこう」「自分からやっていこう」という参加者は多いが、一方で、参加した研修の内容が、実際の業務に役立つと思った参加者は少なかった
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「具体的に、どうやっていけばいいか?(HOW)」の部分は、ほとんどの研修でやらないか、極めて少ししかやらないので、現場で使おうとしても使えない
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会議の進め方について知りたい。打合せは結構やっているけど、聞いているだけの無駄な会議が多い。そもそも、会議をどのようにやればいいのかを知りたい
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他部署との折衝に関するスキルが知りたい。社内であっても、他部署と合意がなかなか取れず、決めるのに時間がかかる
ヒアリング調査の結果、「今までの研修は、参加者が現場で直面している課題を解決できるような実践的な内容になっていない」「参加者は、会議における話し合いの進め方など、すぐに現場で実践できる内容の研修を求めている」ことなどが分かってきました。
私たちは、上記のヒアリング結果を踏まえて、下記の6つの方針施策を提案しました。
実践スキルを習得強化させる6つの方針施策
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1.顕在課題既に現場のニーズが高い課題に対して、研修を企画&実施し、参加者の実践意欲を高める
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2.活用意欲まず、実際に活用場面があって学習意欲の高い参加者を、手挙げ方式で集めて、目に見える成果を出していく
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3.実践習得単なる知識やスキルの紹介にとどまらず、複数回の継続実践型の研修を通して、研修と現場、両軸で実践しながらスキルを習得していく
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4.活用場面そのスキルに関連した現実課題や、現場で実際にそのスキルが必要になる場面を具体化し、そのスキルを具体的にどう使えばいいかを学ぶことで、成果につなげやすくする
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5.段階習得難易度の高いスキル自体のトレーニングだけではなく、そのスキルを習得するための前提になる前段階のスキルのトレーニングも合わせて行う
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6.傾向改善トレーニングを通して、普段無意識に行っている、自分の思考パターンや行動パターンに気づき、新たな行動を増やしたり、行動の改善につなげていく
その企業では、研修や人材開発担当部署に対する信頼感が下がっていたので、まず重要なことは、現場からの信頼を回復することでした。そのためには、現場のニーズが高く、かつ組織成果にもつながる部分で、現場に役立つ研修を提供し、参加者に「研修って役に立つんだな」と実感してもらう必要がありました。この企業では、「会議を効果的&効率的に進めていくファシリテーションスキル」に対する現場のニーズが高かったので、第一段階として、その研修を企画実施することにしました。また、学んだスキルを現場で即使えるようにするためには、少なくとも、長期間に渡る複数回のトレーニングが必要になることから、研修の形式は、2日間×3回の継続実践型としました。
このような数ヶ月という長期間の研修を実施する場合、成果を左右するのは、参加者の実践意欲です。個人的に学びたいと思っている人か、もしくは、やる必要性を強く感じている人でないと、数ヶ月に渡る長期間のトレーニングを続けていくことは困難です。そこで、今回は、実際に業務の中で会議の進行役を行う機会がある人を対象に、手挙げ方式で参加者を募集することにしました。また、「ファシリテーションスキル」は、初心者がいきなり学んでも習得するのが難しい高度なスキルのため、そのベースとなる「質問によって相手の思考や行動を促すコーチングスキル」を、前段階のトレーニングとして習得してもらうことにしました。
私たちの研修では、実践的なワークを何度も何度も繰り返して、トレーニングしていきます。そうやって、実践に慣れていくことで、現場でスキルを使うことへの心理的なハードルを下げていきます。また、スキルを学んだだけで、現場で使わない人もいるので、研修後に、実践する機会を強制的に設定するなどして、参加者自らが、そのスキルの効果性を体感できるようにしています。今回のケースでも、研修と研修の間に、研修で学んだスキルを使って、部署の会議をファシリテーションすることや、部下後輩に対してコーチングを実践することなどを、半ば強制的に、参加者に実践してもらいました。そうしたことを継続していく中で、参加者自身や職場において、様々な変化が起こってきました。
まず第一の変化は、「コーチングスキル」の実践による、部下や周囲の変化です。部下や周囲と話す際に、コーチングスキルを使って、質問の仕方や聴き方を変えてみたことで、今まで聞けなかった本音やアイデアが出てきたり、相手の自発的な行動が増えてきたりなど、多くの参加者が、これまでにない変化を体感していました。「今までは、こちらから一方的に話をしていることが多かったため、部下は自分で考えることをしなくなり指示を待って動くようになっていた」「自分の考えを押し付けることで、部下の良い考えをつぶしていた」など、参加者自身が、自分の行動パターンの問題点に気づくことができていたのも、具体的な変化につながった大きな要因だったようです。
第二の変化は、現場のミーティングや会議の中で、「ファシリテーションスキル」を活用することでの変化です。「話し合いのアジェンダを事前に設計&共有し、話し合いを行うことで、会議時間が短縮され、かつ密度の濃い議論ができるようになった」「安心して意見を言える雰囲気を作ったり、異なる意見や多様な意見を質問で引き出したりすることで、会議内での参加者の発言が増えてきた」などの効果を、数多くの人が体感していました。こうした研修後の実践報告を参加者で共有することで、個々の参加者のうまくいったやり方を、他の参加者も参考にして実践するようになり、変化はさらに加速していきました。
実践スキルを習得強化させていく上でのポイント
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座学のみで学ぶ研修方法と比較して、実践形式でスキルをトレーニングする研修方法は、非常に多くの時間が必要になるが、その時間をしっかり確保する
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実践に対して、遠慮のないフィードバックを相互に行う機会を沢山作り、無意識で行っている自分自身の行動パターンに気づけるようにする
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できる限り仮想的な課題は使わず、参加者が実際に直面しているリアルな課題を題材にすることで、効果性を体感してもらい、スキル習得の意欲を高めていく
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研修後に強制的にスキルを実践してもらい、スキル活用の最初の一歩を踏み出しやすくする
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長期間に及ぶトレーニングは、強い意欲がないと続かないため、もともと参加意欲が高い人か学ぶ必然性がある人のみに、参加者をできる限り絞る
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